旧有備館とは?
「旧有備館(ゆうびかん)」のある宮城県大崎市岩出山は、伊達政宗が仙台城へ移る前に居城(岩出山城)を構えていた場所です。
およそ12年間、政宗はこの岩出山で過ごしました。
江戸時代を迎え初代仙台藩藩主となった政宗は、居城を仙台城へ移す際に岩出山を4男・伊達宗泰(だて むねやす)に引き渡します。それが宗泰を家祖とする、岩出山伊達(いわでやまだて)のはじまりです。
以降江戸時代は、岩出山伊達氏が※仙台藩一門として岩出山を治めます。
江戸時代末期に開かれた学問所
現存する旧有備館の「御改所(主屋)」は、宗泰の長男である岩出山伊達家2代当主・伊達宗敏(だて むねとし)の隠居所として、延宝5年(1677)に建てられた可能性が高いとされています。
その後嘉永3年(1850)頃、10代当主・伊達邦直(だてくになお)の時代に学問所「有備館」が開校され、岩出山伊達家の家臣・子弟の学び舎となりました。
昭和8年(1933)2月28日に「旧有備館および庭園」の名称で、国の史跡及び名勝に指定されます。一般公開されるようになったのは、昭和45年(1970)。岩出山伊達家より岩出山町(大崎市)に譲渡されました。
旧有備館の中を見学してみよう
「旧有備館および庭園」の全体図です。さっそくメインの「旧有備館」からみていきましょう。
こちらが入口。有備館は「御改所」と「附属屋(ふぞくや)」という2つの建物が並んでおり、学問所として利用されたのは御改所の方です。
入り口すぐ右手にあるのが附属屋で、まっすぐ奥へ進んだ先が御改所です。まずは御改所から見ていきます。
御改所(おあらためどころ)
郷学「有備館」として開校していた頃、この建物は御改所(おあらためどころ)と呼ばれていました。ここで岩出山伊達家の当主が講義を聞いたり、学生に知識や学力を問う口頭試問を行ったとされています。
学んでいた学生は、寺子屋などで初等教育(読み、書き、そろばんなど)を受けた岩出山伊達家の子どもたち。有備館では、儒学を修得していたと考えられています。
襖に施されているのは伊達家の家紋である、九曜と竪三引両の紋様。写真上は復元されたものですが、写真下は参考元となった実物です。館内に展示されています。※2020年11月15日(日)まで。
写真上は※釘隠し。よく目を凝らしてみると、岩出山伊達家の家紋「竹に雀」が刻まれています。
こちらは岩出山伊達家初代当主・宗泰が、藩祖・伊達政宗より拝領した家紋です。
写真下は伊達家の家紋。
有備館以前の御改所は、藩主・当主専用の隠居所や下屋敷として利用されていたと考えられています。名称も御改所ではなく、「書院(しょいん)」と呼ばれていたようです。
藩主が書院(御改所)に来られた際は、饗応所として使用され能の催しなどが行われたといわれています。現在は年に2回、コンサートを開催。
附属屋(ふぞくや)
入り口すぐ右手にある「附属屋」。有備館のときの名称は不明ですが、隠居所や下屋敷の時は「広間」と呼ばれていました。家臣の控えの間などに利用されたようです。
附属屋では有備館の歴史を紹介する展示パネルや、映像をみることができます。
外から見る旧有備館
軒下の家紋に注目
池側からみる有備館。写真の建物は御改所です。目線を軒下に向けてみると……
家紋が彫られていました。写真右は伊達家の家紋「九曜紋」、左は伊達家の家紋ではない「違い※丁子紋(ちょうじもん)」です。なぜ違い丁子紋が有備館に使われているのか、理由はまだ明らかにされていません。
※丁子紋…原産はインドネシア、古来から日本に輸入されている植物。花のつぼみが釘に似ていることから、中国でくぎを意味にする丁子が当てられた。
香料や薬にもなったことから縁起物とされ、晴れ着などに使われる模様「宝尽くし文(たからづくしもん)」の一つとなっており、家紋に用いられることもあった。
ちょうど入口の裏側へきました。取材時は9月下旬頃でしたが、ほんのりモミジが色づいています。
旧有備館の紅葉は例年10月下旬に色づきはじめ、11月上旬に見ごろを迎えます。※時期によって見頃は左右されます。
また2020年11月7日(土)・8日(日)には、「紅葉の有備館のライトアップ」が開催されるそうです。詳細は旧有備館の公式HPをチェックしてみてくださいね!
庭園内を散策!見どころを紹介
取材時(2020年9月下旬)は庭園の半分ほどが工事中で、御中島にある茶亭や他の島々へは行けませんでした。
今回は地図の左側、明神社から出先までの周辺をご紹介いたします。
「旧有備館および庭園」の庭園は、岩出山伊達家4代当主・伊達村泰により依頼された、仙台藩茶道の石洲流清水派・清水道竿(しみずどうかん)が作庭したと伝えられています。
岩出山城本丸跡の断崖を借景とし、池の中に島を配置した池泉回遊式庭園(ちせんかいゆうしきていえん)です。
池の中に四つの島を配しており、うちひとつの島には茶亭が建っています。
ちなみに池に近づくと、すぐにたくさんの鯉が口をパクパクさせながら寄ってきます。 鯉のエサは受付で販売。
有備館の前を通り過ぎ、池の周りを道なりに進んで行くと、赤い鳥居がみえてきます。
明神社
明神社です。右手には4基の板碑がありました。
神明社からみる有備館。建物と樹木と池のマッチングが見事です。
冷泉家(れいぜいけ)の桜
道なりに進んで行くと大きな木がみえてきます。樹齢推定約300年の山桜です。この山桜は江戸時代の正徳5年(1715)に、京都公家の冷泉家より贈られた大和国(奈良県)吉野の桜と伝えられています。
園内にはさまざまな樹木や草花が植えられており、四季折々の景色が楽しめるのも魅力です。
山桜を過ぎると出先に通じる道があります。左から一周してみましょう。写真は出先からみる御中島で、左上にみえる建物が茶亭です。
少し先へ進むと亀子中島と鶴ヶ島もみえてきます。近くには雷神様の小さな祠(ほこら)もありました。
竹林
出先の反対側には竹林が広がっています。右手の奥には内川が流れ、川のせせらぎが心地よいです。地面を覆う苔の緑も鮮やかですね。
西苑
竹林から明神社を通って戻ると、西苑に入ります。
西苑をそのまま真っすぐ進むと、受付がある建物がみえてきます(トイレあり)。旧有備館の散策はここまでです。
こちらは旧有備館の正門。入口は正門からではなく、右隣にある裏門からとなります。
【旧有備館の基本情報】
所在地:
〒989-6433 宮城県大崎市岩出山字上川原町6
営業時間:
9:00~17:00(最終16:30)
※毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、12月29日~1月3日は休館日。
入館料:
大人350円、高校生260円、小・中学生180円
旧有備館へのアクセス
有備館は、仙台市から北へ約60km離れた大崎市岩出山町に位置しています。
車なら仙台市内から70分ほど、電車だと新幹線利用で約50分、新幹線を利用しない場合は1時間40分前後かかります。
<車>
東北自動車道 古川I.Cから約15分。
無料駐車場あり。普通車50台、バス5台。
<電車>
・新幹線を利用する場合
JR仙台駅から東北新幹線やまびこに乗車(約11分)し「古川」下車。「古川駅」からJR陸羽東線「鳴子温泉行」に乗車(約28分)し「有備館駅」下車。駅から歩いてすぐのところに「有備館」があります。
・新幹線を利用しない場合
JR仙台駅からJR東北本線「小牛田行」に乗車(約45分)し「小牛田駅」で下車。「小牛田駅」からJR陸羽東線「鳴子温泉行」に乗車(約45分)し「有備館駅」下車。
旧有備館の周辺スポット
岩出山城跡(城山公園)
旧有備館のすぐ隣にある、伊達政宗が12年間居城した「岩出山城跡(城山公園)」。園内には真っ白でおとなしい姿をした、伊達政宗像があります。
これは現在青葉城にある伊達政宗の騎馬像の前に設置されていた像で、伊達政宗の像としては2代目。
戦後まもない頃に青葉山に建てられたため、戦をイメージさせる騎馬像ではなく平和を表す政宗像としてつくられたようです。
【岩出山城の基本情報】
所在地:
〒989-6437 宮城県大崎市岩出山城山
アクセス:
JR陸羽東線「有備館駅」から徒歩約10分
駐車場:
無料/20台
有備館駅構内にある伊達政宗騎馬像
こちらの騎馬像は、1989年から2008年まで仙台駅構内にあったもので、仙台市民の待ち合わせ場所のシンボルでした。2008年に有備館駅に移され、現在は岩出山のシンボルとなっています。
【有備館駅の基本情報】
所在地:
〒989-6433 宮城県大崎市岩出山上川原町
アクセス:
JR陸羽東線「有備館駅」
駐車場:
なし
日本刀の中鉢美術館
中鉢美術館(ちゅうばちびじゅつかん)は有備館駅から徒歩で約1分。名刀の「正宗」や「村正」など常時50振り以上の日本刀が展示されています。
【中鉢美術館の基本情報】
所在地:
〒989-6433 宮城県大崎市岩出山字上川原7-6
アクセス:
JR有備館駅から徒歩約1分
駐車場:
無料/3台
森民酒造店と昭和レトロ館
明治16年(1883)創業の酒蔵で森泉の醸造元。昭和レトロ館は店内に併設されています。2015年に森民酒造店、酒蔵、居宅などが国の登録有形文化財に指定されました。
【森民酒造店の基本情報】
所在地:
〒989-6433 宮城県大崎市岩出山字上川原町15
アクセス:
有備館から徒歩4分
駐車場:
無料/10台
また少し足を伸ばせば「感覚ミュージアム」があります。人間がもつ視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚といった五感をテーマとするミュージアムです。有備館から徒歩約8分、車で1分ほど。
旧有備館の近くでランチタイム
今回は筆者が立ち寄ったランチのお店をご紹介します。森民酒造店のすぐ近くにある柳月(りゅうげつ)食堂です。
昼時は多くの人で混み合いますので、少し時間をずらすのが良いかもしれません。
筆者はチャーシュー麵をいただきました。素朴な味で懐かしくもあり沁みる一杯。オススメは唐揚げラーメンとカツ丼で、夏はざる中華だそうです。
【柳月食堂の基本情報】
所在地:
〒989-6433 宮城県大崎市岩出山上川原町14
アクセス:
有備館駅から徒歩3分
駐車場:
無料/約5台
およそ350年の歴史を誇る旧有備館
記事の前半で、「有備館は岩出山伊達家2代当主・伊達宗敏(だて むねとし)の隠居所として、延宝5年(1677)に建てられた可能性が高い」と説明しましたが、この説が裏付けられたのはここ数年の話です。
それまでは二の丸消失で仮居館が建てられ、のちに移築され有備館として使用されたという「※移築説」が有力視されていました。
しかし2011年に発生した東日本大震災により、旧有備館の「御改所」が倒壊。解体・修復工事が行われるのなか、その中で再利用しない8本の建材を、山形大学が放射性炭素年代測定で調査しました。
その結果、95%の確率で梁の1つは1652年から1670年、柱の1本は1654年から1678年の伐採と判明。この発見は、2009年発刊の岩出山町史に記載されている「隠居所として1677年に建築の可能性」を裏付け、それまで有力視された※移築説に疑問を呈する結果となったのです。
隠居所、下屋敷、郷学(学問所)と、様々な用途に利用され岩出山伊達氏を支えた「有備館」。お城以外の伊達家ゆかり名所、ぜひ足を運んでみてください!