被災した庁舎の残る「南三陸町震災復興祈念公園」
さんさん商店街側から中橋を渡ると「南三陸町震災復興祈念公園」 にたどり着きます。 南三陸町震災復興祈念公園は、震災犠牲者の追悼、震災の記憶と教訓の継承などをテーマとしてつくられました。
震災遺構「防災対策庁舎」
広い公園で、まず目に入るのが東日本大震災で被災した「防災対策庁舎」。
現在も震災遺構として残され、メディアなどでも度々取り上げられることが多い建物です。
建物は3階建てで地上から約12mもありますが、当時その高さをはるかに上回る海抜16.5mもの津波が襲いました。
当時庁舎内にいた職員や近隣住民53人が屋上へと非難しましたが、このうち43人が犠牲となっています。 生還した10人は屋上にあるアンテナや非常階段に手すりにしがみついて、何度も押し寄せる津波を耐え抜いたのだそうです。
また、隣接する行政第1・第2庁舎も津波で流されています。
赤い骨組みだけ残った姿が津波の恐ろしさを現しています。
骨組みも捻じ曲げられ、外階段の手すりも激しく歪んでいます。
防災対策庁舎は、震災後20年間(2031年(令和13年)3月まで)は宮城県により保存され、その後の保存の是非は南三陸町で検討されることになっています。
「復興祈念のテラス」で祈りを
防災対策庁舎の向かい側正面には「祈りの丘」があります。
祈りの丘の階段を上ると、「高さのみち」という歩道が整備されています。この場所の高さは海抜16.5m。南三陸町志津川地区の市街地に襲来した津波の平均高さと同じです。
ここから防災対策庁舎を眺めるとかなり低く見え、いかに津波が高かったのかを感じさせられます。
祈りの丘の頂上には「復興祈念のテラス」があります。
ここには、町内の犠牲者804名の名簿を納めた「名簿安置の碑」があります。
自然と手を合わせずにいられない場所です。
碑の向こう側には、海が。写真右手にある「高野会館」も震災遺構。当時、町民の方々による芸能発表会が行われている際に地震が発生しましたが、会館スタッフの迅速な判断によって327人の命を救った場所です。南三陸311メモリアルでも詳しく説明されています。
筆者は震災以降何度かこの場所を訪れていますが、防潮堤や道路が整備され、景色がかなり変わったと感じました。11年の月日を感じられる場所となっています。
「南三陸311メモリアル」 の映像と対話を通して行動を考える
南三陸311メモリアルは2022年10月1日にオープンした、防災・減災について自分ごととして考えるためのプログラムを提供する震災伝承ラーニング施設です。展示されている資料や映像を通して、自然災害が起こった際にどう行動するかを考えることができます。
建築設計を担当したのは、中橋のデザインも手がけた隈研吾建築都市設計事務所。
南三陸産の木材を使用し、「海と山、過去と未来をつなぐ船」をイメージしてつくられたのだそう。木材を斜めにあしらった、ほかにないダイナミックなデザインです。
施設内は無料ゾーンと有料ゾーンに分かれています。有料ゾーンは映像上映に合わせて入れ替え制のため、事前日時指定の予約制となっています。予約なしでも満員でなければ入館が可能ですが、事前にネットで予約しておくのがおすすめです。
また日にち・時間によってプログラムも変わります。
60分のレギュラープログラムが2つ、レギュラープログラムを小テーマ毎に分けた30分のショートプログラムが計5つとなっているので、来館する日の予定を確認して選びましょう。
筆者は、「生死を分けた避難」のショートプログラムBを予約し、その時間に合わせて来館しました。
こちらが入口です。エントランスで受付で済ませると、ラーニングプログラムで使用する冊子をいただけます。
その冊子がチケット代わりになるので、施設内ではなくさないよう気を付けましょう。
予約時間まではエントランスにある南三陸町における東日本の被害実態の資料を見て過ごしました。
住民たちの震災時の証言映像やバナーを展示する「展示ギャラリー」
予約時間になり、有料ゾーンに入ります。
まずは展示ギャラリーから見学。ここでは、住民たちの震災時の証言映像や震災遺物資料などを展示しています。
部屋をぐるりと囲むように展示がされており、映像はヘッドフォンで音声を聞きながら1人ずつ鑑賞するスタイル。1度は流されながらも命が助かった男性の証言が印象的で、計り知れないほどの恐怖だと感じました。
1つずつじっくり見ると結構時間がかかります。係の方からも案内していただけますが、ラーニングシアターの上映に遅れないよう注意。また、展示ギャラリー内は後からまた戻ることも可能でした。
クリスチャン・ボルタンスキーの作品を展示する「アートゾーン」
ラーニングシアターに向かう間にあるのがアートゾーン。
フランスの現代美術家で生と死をテーマに多くの作品を残す、クリスチャン・ボルタンスキー氏のインスタレーション作品「Memorial」が展示されています。
南三陸町は2019年に作品制作を依頼し、ボルタンスキー氏は東日本大震災直後の被災地を訪れていたこともありそれを快諾。2020年春に作品設計図が送られてきたものの、2021年7月14日に急逝してしまいます。
南三陸町はその作品設計図をもとに、ボルタンスキーの作品制作を手掛けてきたアトリエ エヴァ・アルバランと制作を行い、作品を完成させたのだそうです。
暗い展示室にあるのは、ボルタンスキー氏の代表作である錆びたビスケット缶を積み上げたインスタレーション。1,050個ものビスケット缶は町内の板金工場が作家に確認をとりながら手作業で制作し、南三陸町の潮風のなかで風化し錆びていったものなのだそう。
ラーニングプログラム映像を上映する「ラーニングシアター」
ラーニングシアターでは、住民たちの証言などで構成されたラーニングプログラム映像を上映する場所。3面のプロジェクターとイスが並べられており、好きな場所に座って鑑賞します。
筆者が選んだ「生死を分けた避難」 ショートプログラムBの映像は15分ほど。
公立志津川病院と、先ほど復興祈念公園からも見えた高野会館の屋上で津波を経験した方の証言映像と当時の映像を鑑賞しました。
震災当時、雪が降る極寒のなか、そこにいた人々が周りを思いやって行動し、声をかけ続けながら乗り越えたことを知り、自分ならそのように行動できるか自問自答する時間でした。
実際、映像の後半ではシアターにいる周囲の方との対話をする時間があり、災害が起こった際にどうするべきかを一緒に考えることができます。
震災から10年以上が経ち災害を前にある程度の物資などを備えてはいるものの、過去を踏まえてどのように行動するかということまで考えることは減っていたので、改めて考え直すきっかけになる体験でした。