富谷市って、どんなところ?
宮城県の中部に位置する富谷市(とみやし)は、2016年(平成28)に黒川郡富谷町から富谷市となり、宮城県内では14番目の市となっています。
富谷市は合併のない単独の市制移行で、総人口は約52,000人。仙台市のベッドタウンとして、現在も人口が増え続けています。
今回筆者が訪れたのは、富谷市の富谷新町です。そこは江戸時代に、奥州街道の宿場町として栄えた歴史があります。
奥州街道2番目の宿場「富谷宿」
奥州街道とは、江戸時代に整備された五街道の一つ(正式には奥州道中という)。
街道には、宿駅(旅人が休む場所)と問屋場(幕府公用の交通や流通事務を管理する場所)の機能をもった「宿場町」が設立されました。
奥州街道最初の宿は、現在の東京都足立区・荒川区にあった千住で、千住より71宿目の宿場町が「富谷宿(とみやじゅく)」でした。
現在、富谷新町の「しんまち通り」には趣のある旧家が立ち並び、宿場町だった当時の面影を偲ぶことができます。
400年にわたる富谷宿の歴史
江戸時代初期の1618年(元和4)。奥州街道の整備が進み、街道を往来する大名や旅人のため新たな宿場が必要となりました。
そこで仙台藩祖・伊達政宗公は、元鶴巣城主(宮城県黒川郡大和町)・黒川氏の家老だった内ヶ崎筑後(のちの織部)に、宿場の開設を命じます。
当時、この地区の戸数は13戸ほどしかなかったようですが、織部の尽力もあり、2年後の1620年(元和6)には倍になったようです。
そして、伊達政宗の黒印状をもって「富谷宿」が誕生しました。
1842年(天保13)の記録では、街道沿いに「宿屋」「呉服屋」「酒屋」「醤油屋」といった店が70軒以上も軒を連ねていた、と残されています。
仙台城城下以北の大名が宿泊した
仙台以北の奥州街道では、2番目の宿場となった富谷宿。
仙台城城下以北を治める、松前(松前氏)、弘前(津軽氏)、黒石(津軽氏)、八戸(南部氏)、盛盛岡(南部氏)、一ノ関(田村氏)の諸藩が、富谷新町宿を利用しました。
お茶の名産地だった
かつて、この一帯はお茶の産地として知られ、1751年の盛岡藩の記録には「富谷宿の名物はお茶である」との記載が残されています。
富谷茶の栽培は1970(昭和45)で途絶えていました。しかし2020年(令和2)、公益社団法人 富谷市シルバー人材センターが「富谷茶復活プロジェクト」を発足させ、現在「富谷茶」の復活を目指しています。
前置きが長くなってしまいましたが、さっそく富谷新町の「しんまち通り」を歩いてみたいと思います。
奥州街道 宿場町とみや「しんまちめぐり」
しんまちめぐり第二駐車場
こちらが「しんまちめぐり」専用の第二駐車場。
駐車可能台数は7台です(無料)。満車の場合は「とみやど」の近くにある第一駐車場を利用してください。
取材日は、紅葉シーズン真っ盛りの11月!
14時頃の訪問で、気温16℃で天候は秋晴れという絶好のコンディションです。
内ヶ崎別邸庭園
駐車場のすぐとなりにあるのが、「内ヶ崎別邸庭園」です。
明治中期に内ヶ崎総本家の分家にあたる、初代内ヶ崎文之助によって建てられました。
一般開放はされていません。敷地面積は3,500平方メートル(約1,058坪)もあるそうで、邸宅内には回遊式庭園が残っているそう。
脇本陣跡
駐車場から道なりに進むと、左手に「脇本陣跡」が姿を現します。
脇本陣跡は本陣に次いで、格式の高さを求められたとされており、盛岡藩や松前藩、八戸藩の常宿だったそうです。
また1876年(明治9)と1881年(明治14)に、明治天皇が東北北海道行幸の際に御小休された部屋が、今も残されています(現在は公開されていません)。
旧佐忠商店(冨谷宿)
脇本陣を進んで行くと、右手に趣のある建物がみえてきます。「冨谷宿(とみやじゅく)」です。
冨谷宿は、江戸時代後期の1843年(天保14)に呉服屋として創業し(旧佐忠商店)、現在はしんまちの資料館・地場産品販売所として営業しています。
旧佐忠商店(冨谷宿)の店舗及び主屋、門は、2021年(令和3)に国の有形文化財に登録されました。
内ヶ崎酒造店(本陣跡)
冨谷宿より先に進むと、右手の並びにみえてくる「内ヶ崎酒造店(本陣跡)」。本陣とは、参勤交代の時に大名が泊まる宿泊所のことです。
1618年(元和4)伊達政宗より命ぜられた宿場の開設後、内ヶ崎本家は代々にわたって本陣を務めてきました。
酒造業は1661年(寛文元年)の創業で、内ヶ崎酒造店は宮城県最古の酒蔵となっています。
中宿
内ヶ崎酒造店(本陣跡)から熊野神社まで続く地域が、中宿(なかじゅく)です。中宿とは、旅の途中に休息または宿泊する施設のこと。
中宿周辺の街道沿いは、今も江戸時代の宿場町らしい景観をみることができます。
恋路の坂
中宿から「とみやど」を過ぎた左手にあるのが、「恋路の坂(こいじのさか)」です。
アインシュタインの弟子で東北帝国大学(現在の東北大学)助教授だった石原 純氏と、歌人の原 阿佐緒(はら あさお)氏の2人が歩いたとされる坂道。
2人の恋にちなんで名付けられた坂ですが、なんと当時の石原氏は妻子持ちだったとか。そのためこの2人の恋愛は、大問題に発展したそうです。
毘沙門堂
恋路の坂を上がっていくと、「毘沙門堂(びしゃもんどう)」の入口の案内板が立っていました。
そのまま小高い山を登っていくと、毘沙門堂がみえてきます。
このお堂の勧請年月は、明らかにされていません。
しかし1774年(安永3)の風土記御用書出によると、
「御本尊は2尺6寸(約78㎝)の木仏立像で行基菩薩の作」
と記載されているようです。少なくとも、江戸時代にはすでに建立されていたと考えられます。
次はしんまち通りのメイン、「富谷宿観光交流ステーション(とみやど)」に行ってみましょう!
富谷宿観光交流ステーション(とみやど)
先ほどご紹介した「内ヶ崎酒造店(本陣跡)」のちょうど向かい側にあるのが、「富谷宿観光交流ステーション(とみやど)」です。
もともと内ヶ崎醤油店だった跡地を活用し、富谷市が整備した観光施設。観光交流の拠点ならびに起業や創業などによって地域経済の活性化を目的に、2021年(令和3)5月15日にオープンしました。
富谷市が当初の目標としていた年間来場者数10万人に、わずか5カ月で到達したという人気の施設です。さっそく施設内に入ってみましょう。
内ヶ崎作三郎記念館
右手から左回りにご紹介します。
入口の門からすぐ右手にあるのが「内ヶ崎作三郎記念館」。政治家・内ヶ崎作三郎氏の功績を伝える記念館です。
生家を改装し、内ヶ崎作三郎氏に関するさまざまな資料が展示されています。記念館の入場は無料。
富谷宿焼 くんぷう
お次は「内ヶ崎作三郎記念館」に隣接する「くんぷう」。富谷市の陶芸工房「富谷宿焼・薫風窯」の屋号で、1997年(平成9)に開業しました。
店内では、かわいい食器や富谷市の公式キャラクター・ブルピヨなどの作品が販売されています。
とくに、富谷宿ゆかりの内ヶ崎織部夫婦をかたどった「織部人形」が人気だとか。
また、手びねりや電動ろくろを使った陶芸体験も受け付けています。詳細は以下の公式ウェブサイトをチェック!
EIGHT CROWNS
「富谷宿焼 くんぷう」の奥となりに建つ「EIGHT CROWNS」は、蔵を丸ごと店舗化したはちみつの専門店です。国産で非加熱の“生はちみつ”を取り扱っています。
社名のEIGHT CROWNS「8つの冠」は、8匹の女王蜂という意味を持つ8つの巣箱から始まったことが由来だそうです。
経営者は、宮城県在住のロックバンド「MONKEY MAJIK」のギター、ヴォーカル担当のメイナード・プラント氏と、ドラムス担当のTAXこと菊池拓哉氏の共同経営。
EIGHT CROWNSの入口
蔵の造りをそのまま活かした「EIGHT CROWNS」の入口。なんだかワクワクします。
重厚な蔵の扉が両開きになっており、入りやすい雰囲気です。
EIGHT CROWNSの店内
店内に並ぶ、さまざまな生はちみつ。はちみつを使用したお酒も並んでいます。
他にパーカーやTシャツなどのアパレルも販売されていました。
EIGHT CROWNSの生はちみつ
筆者もさっそく「クリームドハニー(110g)」を購入。舌ざわりが良く濃厚で、口の中に蜜の甘味が優しく広がります。バタートーストやヨーグルトに混ぜてもいいですね。
詳細は下記の公式ウェブサイトをチェック!
続いては、飲食品店が並ぶエリアへ向かいます。
HACCHIME
「富谷宿焼 くんぷう」の向かい側にあるのが「HACCHIME」。「はっちみー」は店主のニックネームだそうです。
富谷しんまちの精肉店「ハチヤミート」の精肉を使った「とみや丼」が人気メニューで、他に各種定食もそろっています。また、手づくりコロッケや唐揚げなどがテイクアウト可能です。
中華屋 丹心
「HACCHIME」とトイレを挟んだところにある「中華屋 丹心」。
このとみやど店は富谷市富ケ丘にある中華屋丹心本店の2号店だそうです。
あんかけラーメンの丹心湯麺(タンシンメン)が不動の人気メニュー。他に平日限定ランチなど、とみやど店でしか食べられないメニューも用意しているそうです。
詳細は下記の公式ウェブサイトをチェック!
&とみやジェラート
中華屋 丹心と軒を連ねている「&とみやジェラート」。
&とみやジェラートは、イタリアの老舗ジェラート製造機メーカー・カタブリガを導入した本格ジェラート店です。
なかでも地元食材の富谷ブルーベリーやお茶などを使ったジェラートが大人気。
ブルーベリーとミルクのジェラート
さっそく筆者もジェラートをオーダー。ブルーベリーとミルクです。口あたりがとてもなめらか!
もちろん単品でも美味しいのですが、混ぜて食べるのもいいですね。
オンラインストアは、下記公式ウェブサイトをチェック!
いい茶や
「いい茶や」は&とみやジェラートに隣接し、入口の門をくぐってすぐ左手にあります。初めての方も、気軽にお茶が飲める場所としてオープンしました。
抹茶セットや地元食材と富谷産の生はちみつを使った料理がオススメ。
詳細は下記公式ウェブサイトをチェック!
イベントステージと野外交流サイト
駐車場から近いところにある「イベントステージ」と「野外交流サイト」。主にイベントの開催を目的とする場所で、吹奏楽や音楽イベントなどで使用されています。
ステージの反対側にあるスペースは、休憩やイベントで活用する芝生広場です。
しんまちめぐり第一駐車場
「とみやど」へは「しんまちめぐり第一駐車場」がオススメ。駐車スペースは30台ほど。
駐車場から直接「とみやど」内に入れますので便利ですが、とくに11:00〜14:00の時間帯は大変混みあうようです。
【宿場町とみや「しんまち通り」の基本情報】
所在地:
宮城県富谷市富谷新町 しんまち通り
アクセス:
<電車・タクシー>
JR東北本線 利府線「利府駅」よりタクシーで約27分
<車>
仙台北部道路「富谷I.C」より約26分
駐車場:
・しんまちめぐり第一駐車場(9:00〜18:00)
無料/30台
・しんまちめぐり第二駐車場(8:30~17:00)
無料/7台
・しんまち公園駐車場
無料/150台
【富谷宿観光交流ステーション「とみやど」の基本情報】
所在地:
〒981-3311 宮城県富谷市富谷新町111-1
定休日:
火曜日(祝日の場合は翌日)
営業時間:
【平日】11:00〜15:00
【土日祝日】 11:00〜17:00
政宗ゆかりの富谷市へ
藩政時代、仙台藩初代藩主・伊達政宗の御狩り場が富谷市にあったそうです。
鷹狩中に政宗が寵愛していた鷹が息絶えてしまったため、政宗はこれを悲しみ、かめ(小型の壺)に入れて手厚く埋葬したとされる杉の古木「甕杉(かめすぎ)」が富谷市鷹乃杜に残っています。
甕杉は富谷市指定の天然記念物で、地元では「亀杉」と呼んでいるそうです。
今回は富谷市の中でも「しんまち通り」をご紹介しましたが、政宗ゆかりの地という縁で、機会があればそちらにも足を延ばしてみたいところです。
発行年月:2018年02月
ページ数:207p サイズ
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