仙台のピラミッド「太白山」とは?
「太白山(たいはくさん)」は仙台市太白区茂庭生出森にそびえる、標高320.61mの独立峰。仙台市民にとって馴染みのある山ですよね。
ポコンと突き出た円錐形の山容は、「仙台のピラミッド」や「名取富士」とも呼ばれています。
太白山が誕生したのは、富士山と同時期である約800万年~500万年前。マグマの活動によって形成されたと考えられています。
もともとの山名は「ウドガモリ」や「オドガモリ」と呼ばれており、江戸時代の絵図では「ウトガ森」と記されていたようです。
太白山の山容は沖合いからも確認できるため、江戸時代には千石船が航海時の目印の1つとしていました。
「太白山」は金星が関係している!
では「ウドガモリ」から、なぜ「太白山」という名称になったのでしょうか? それは、宮城県の「太白山県自然環境保全地域学術調査書」に詳しく書かれていました。
資料によると、太白山というのは日本固有の山名ではなく、”宵の明星(よいのみょうじょう)”といわれる金星をさす中国名だそうです。
中国にも全く同じ名前の「太白山」が存在します。西安(唐代の都・長安)からみると金星(太白星)がちょうど太白山の山上で輝き、また沈む位置であることから命名されたそうです。
実は仙台の太白山も、仙台城から眺めると山上に金星(太白星)が輝き、また沈む位置にそびえています。
都と金星、そして山の位置関係が中国の太白山と同じであると気付いた仙台藩の儒学者は、「太白星、地に墜ちてこの山となる」と言い「オドガモリ」を「太白山」と名付けました。
金星が輝き沈む山、と聞くとなんだかロマンティックですね~。
続いては登山口から山頂までの道のりをご紹介します。今回は太白山の麓に広がる「太白山自然観察の森」から山頂を目指す、一般的な登山コースを歩きました。
自然観察の森から山頂までは、片道約80分。距離にして約5kmあります。初心者でも登りやすい山ですが、岩場などもあるため歩きやすい靴や軍手などがあると安心です。
※また熊の目撃情報もあるため、必ず事前に仙台市のHP「ツキノワグマ対策について」を一読し、対策の準備をしたうえでお出かけください!
登山口までの道のり
こちらが仙台市太白山自然観察の森の専用駐車場です。20台ほど無料で駐車できます。
<駐車場までのアクセス>
■所在地:
〒982-0251 仙台市太白区茂庭字生出森東36-63
■車:
東北自動車道 仙台南I.Cから車で約10分
■公共交通:
JR仙台駅西口前バスプール7番もしくはJR長町駅西口バスプール3番より宮城交通バス「山田自由が丘行」に乗車、「公営アパート前」で下車し徒歩15分で太白山自然観察の森。
仙台市太白山自然観察の森案内図
駐車場から車道を進むと、写真右の案内図がみえてきます。そのまま真っすぐ進みましょう。
自然観察センター
案内図から1分ほど歩くと、左手に「自然観察センター」がみえてきます。
入口に無料ガイドマップが置いてあるので、もらっておきましょう。自然観察の森から太白山までの詳細なルートを確認できるため、持ち歩くと便利ですよ。
自然観察センター内には、太白山周辺の模型が展示されていました。太白山へのルートや主要エリアを確認できます。
自然観察の森~太白山までの道のり
自然観察センターから自然観察の森を通り、太白山の頂を目指します。それではレッツゴー!
自然観察の森から太白山までは「みはらしの道」「やすらぎの道」「であいの道」「太白の道」と4つのルートがあります。今回は「やすらぎの道」を選択!
木漏れ日が気持ちいい林道を進んでいきます。
「やすらぎの道」を進んで行くと、野外教育施設でもある「蝶の野原」という少し広いエリアがみえてきます。
道中にみられる紅葉。その美しさに、思わず足を止めてしまいます。
適度なアップダウンがあり、トレッキング感覚で森歩きを楽しみます。
太白山入口手前のガイドマップにある「カ23」地点。ものすごい数の杉の木が立ち並んでいます。
太白山附近案内図を発見。自然観察の森を抜けて、いよいよ太白山へ登り始めます。
案内図を過ぎた先に続く遊歩道。とてもよく整備されているので歩きやすいです。
生出森八幡神社から山頂までの道のり
太白山の中腹にある「生出森八幡神社(おいでもりはちまんじんじゃ)」の鳥居がみえてきました!
鳥居の前には駐車場があります。ここまで車で来て太白山を目指す、というルートもいいかもしれません。
鳥居から参道を進んで行くと狛犬がみえてきます。ここは鳥居と神社の中間地点ですので、神社があるところまで上ってみましょう。
かなり険しい岩場を登りきった先には、「生出森八幡神社(本宮)」が鎮座していました。文治5年(1189)に、源頼朝が鎌倉の鶴岡八幡宮から勧請したといわれています。
2011年の東日本大震災により、参道の石垣や石段が被害を受けたそうです。周辺は足場が悪いので足元には十分ご注意ください。
神社を下りると神楽殿があります。生出森八幡神楽は平成3年(1991)に、仙台市の無形民俗文化財に指定されました。
現在こちらで奉納神楽は行われていませんが、麓の茂庭にある生出森八幡神社(里宮)で毎年開催されています。
生出森八幡神社から太白山頂上へ
神楽殿を背にしてさらに上を目指します。頂上に鎮座する貴船神社までの所要時間は20分、との案内板がありました。ここからは非常に険しい道のりが待ち構えています。
すぐ目の前に現れるむき出しの岩と急斜面。気合いを入れてGO!
ここからさらに急な登り斜面が続き、鎖につかまりながら登っていきます。木の根と岩が入り混じり、足元はとても危険です。
ここが最大の難所。足元に注意しながら登ります。息が上がったので、鎖につかまりながら少し休憩。
貴船神社
貴船神社の鳥居がみえてきました。頂上は、もうすぐそこですよ。
何とか登頂に成功しました! こちらが頂上地点にある貴船神社(きふねじんじゃ)。大同2年(807)に豊作を願った村人たちが、神の化身であるウドの大木を切り倒すために京都から分霊を移したと伝えられています。
山頂から望む景色です。仙台市太白区太白地区の住宅地と、その先には太平洋に浮かぶ船もみえます。
こちらは南東を望む風景。中央にみえる蛇行した道路は東北自動車道です。
北東方面は山岳地帯が望めます。
頂上から来た道を戻ります。上からみるとかなり急なので、ちょっと怖いです。下りは特に気を付けて戻りましょう。帰り道も美しい紅葉や草木を楽しめますよ。太白山の散策はここまで。
もう1つある「生出森八幡神社(里宮)」
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、実は生出森八幡神社は同じ名前で2つの場所にあります。1つは太白山の中腹にある生出森八幡神社(本宮)で、もう1つが太白山の麓の茂庭地区にある生出森八幡神社(里宮)です。
里宮の方は、江戸時代後期の神社で造営は元禄7年(1694)。そして、宝暦13年(1763)の再建を経て現在に至るといわれています。
太白山の中腹にある生出森八幡神社(本宮)に行ってから、麓にある里宮に行くのも良いのではないでしょうか。太白山を下りてから比較的近い場所にあるのでオススメですよ。平成8年(1996) 仙台市の登録文化財に指定されています。
【生出森八幡神社(里宮)の基本情報】
所在地:
〒982-0251 仙台市太白区茂庭字中ノ瀬西31
アクセス:
自然観察センターから車で約12分
駐車場:
無料/数台(鳥居の前に駐車可)
知っていると登山が楽しくなる!「太白山の伝説」
「ディスカバーたいはく」で紹介されていた、太白山にまつわる伝説をご紹介します。
オトアの伝説
昔、太白山のあたりは広い野原だったそうです。その村にオトアという美しい娘が住んでいました。
ある晩にオトアが夜中に起きたところ、ゴーッという地鳴りのような音が聞こえてきます。
驚いたオトアは不思議に思い音のする方をみると、目の前で大きな石や黒い土のかたまりがムクムクと盛り上がっているではありませんか。
大きな石や黒い土のかたまりはどんどん盛り上がり、小さな山からだんだん大きな山になっていました。
オトアは驚き思わず「あんれぇー、とんがった山になっていくー」と、大きな声を発します。
美しいオトアの声にびっくりした山は、恥ずかしくなったのか盛り上がっていくのをぴたっとやめてしまいました。
これを聞いた村人たちは「もしもオトアにみられなかったら、富士山よりもっともっと高い山になったのに」と残念がったそうです。このことから、太白山は一晩のうちに生い出たので「生出が森」と呼ばれるようになりました。
また娘の名にちなんで「オトア森」ともいわれています。
生出が森とウドの大木
昔、生出が森にウドの大木が茂っていました。この大木はとても大きく、枝葉が四里四方に広がっています。
これによって麓の村々では、お天道様の光が当たらず田畑の作物は実らなくなってしまいました。困った村人は相談し合い、このウドの大木を切り倒すことにします。
大勢の村人が斧を手に大木を切り倒そうとしましたが、夕方になっても切り倒すことができません。翌日に切り倒すことにして、その日は解散します。
しかし明朝、思いもよらぬ光景に出会いました。なんと昨日切った大木の切り屑が集まり、一晩ですっかり元通りになっていたのです。切ったはずの木屑は1つも落ちていませんでした。
村人らは再び斧を手にとりましたが、その日も切り倒すことができません。次の日も、そのまた次の日も……何度繰り返しても切り倒せないのです。
困った村人らは、村の長老に尋ねます。「独活は神様の化身だから、生出が森の天辺に貴船神社を祀ればよい」と教えられ、京都から貴船明神の分霊を移して祀りました。そして村人は3昼夜祈願し、やっとウドの大木を切り倒せたといいます。
その時、ウドの幹が南側を流れている名取川の水底に沈み、埋もれ木になったそうです。村人は生出が森の麓に、切り倒したウドの大木の精を慰めるために「大木山雲道寺」を建てて供養しました。
その寺は現在ありませんが、山頂にある石宮は貴船神社の祠です。
その後、源頼朝が奥州藤原氏最後の当主・藤原泰衡(ふじわらのやすひら)を攻め滅ぼすため、源氏の守護神である鎌倉の鶴岡八幡宮の分霊を移しました。
さらに頼朝は、自分の兜の連花座に飾っていた源氏の氏神正八幡の神像を作らせ、その御神体を生出が森の山頂に祀ります。これが生出森八幡神社です。
ところが山は怒り狂い、悪天候が続くようになります。農作物は不作になり、村人たちは途方に暮れます。
村人たちは口々に「これはきっと、貴船神社の祟りだ。先に祀った神様を粗末にしたからだ」というようになりました。
そこで山頂にあった八幡神社の祠を生出が森の山腹に移し祀ったところ、これまでの悪い天候が嘘のように治まったそうです。
太白山の大男
昔、太白山に大男が住んでいました。いつも山のてっぺんにある敷石という大きな岩に腰をかけ、右足は1里ほど南東にある名取の吉田地区の田園の中におろし、左足は海岸に近い部落におろして海から魚や貝を取って食べていました。
食べた貝殻は茂庭の岩の川に捨てていたので、今でも貝塚のような厚い層になっているそうです。
時々、大男は大きな足で麓の村におりてきますが、首は雲の上に突き出しているので、村人たちには顔が見えません。ただ太い2本の柱がノッシノッシと歩いてくるのをみるだけだったといいます。
大男の性格は優しく、麓の村人が田畑の仕事で忙しい時にはよく手伝いをしてくれたそうです。太白山の南東を流れている洗沢は、大男が汚れた手足を洗ったところだと伝えられています。
名取の吉田地区には、大男の右足の跡だという長さ3尺ほどの足跡のついた石が田園の中に残っているそうです。
メッコ(片目)の神様
ウドガ森の神様は、片目(メッコ)だったという話があります。山の中を歩いていた神様は、誤ってウドの枯れ茎で目をつついてしまい、片目が見えなくなったからだそうです。
この話から麓では「ウドを食べてはいけない」とされ、畑にもウドはつくっていません。神様と同じようにウドの枯れ茎で片目になることを恐れたのか、あるいは神様を敬ってそのようにしたのかも知れません。
また一説には、ウドは神様の化身だから食べたり畑に植えたりしてはダメといわれているんだとか。
太白山のイチオシは紅葉シーズン!
四季折々の風景が楽しめる太白山。今回の登山はちょうど紅葉シーズンでした。至るところでみられる鮮やかな紅葉や落ち葉のじゅうたんがとても美しく、登山の疲れも吹き飛びます。
太白山への登山に重装備は不要ですが、靴は履きなれたスニーカーがオススメです。また、山の天気は変わりやすいので天気予報は要チェックです。
それとすれ違う登山者は、皆さん熊除けの鈴を付けていました。熊が出没したという情報が出ていますので熊対策もお忘れなく。四季を通じて美しい彩りをみせる太白山ですが紅葉シーズンは格別です。あなたも一度登頂にチャレンジしてみては、いかがでしょうか。